大学受験の世界

以下に記述していることは裏情報でも秘密でも何でもない。公開された懇談会での質疑応答や一般的な資料などから入手した情報に過ぎない。情報ソースは、15年以上も前のものも含まれているが、現在でも古い情報ではない。入試というものがもうすこしオープンなものになるよう願う一人である。

入試問題の印刷場所
●入試問題の印刷場所は秘密のように思われるが、そうではない。財務省(昔の大蔵省、お札を刷っている)印刷局に見学に行ってパンフレットをもらうと、営業品目に「入試問題を印刷しています」と書かれてある。
●大学との校正のやりとりは、2回ほどしかできないため、どうしても誤植が出る。印刷物で誤植等をなくすには、2回のやりとりでは不可能といってもよい。
●よって大学入試問題には「正誤表」がはさまれていることは珍しくないことだと思っておけばいい。


人により、採点結果が違うのは当たり前
●記述式の試験、人によって採点結果は違ってくる。
●例えば数学の答案。Aが採点すれば80点、Bが採点すれば20点なんてことが起こる。
●ちゃんとこういうことを実験した人がいる。
●高名なジャーナリストが書いた論文を、名前を伏せ色んな人に誰がこの論文を書いたか推測してもらったところ、「小学生の作文」から、「大学教授、作家などの文筆プロフェッショナル」までばらついた、なんて実験結果もある。
●大学の採点では、同じ人が同じ設問を採点したり、同じ人が同じ学部を採点したりして、ばらつきが出ないよう配慮されているが、評価のバラツキはなくなるわけではない。
●同じ人が時を置いて同じ答案を採点しても、同じ採点結果になることは稀だろう。


「漢文はお得な科目」
●国語は、現代文、古文、漢文から構成されている。
●現代文と漢文の相関関係は弱い、ということがわかった。
●つまり、現代文の素養がなくても、漢文で高得点を取ることができるということ。
●また、単位数の少ない割には、漢文の配点は大きいところが多い。
●加えて、漢文の入試問題自体、専門家が少ないこともあってか、易しい。


「漢字の試験は、トメハネまできっちりと書くこと」
●入試で漢字の書き取りの問題が出る。
●採点者は、「トメ、ハネ」まできっちりと採点するそうだ。
●小学校のときに間違って覚えていると、そのまま大学入試に突入してしまいそう。
●小学生の漢字テストを見ていると、なぜ×なのかわからず、しばらく考え込んでいたことがある。
●しかし、文章題とか、他の問題については、そう神経質にならなくてもいい。出題意図が違うから。


「答案に余計なことは書くな」
●試験用紙の注意書きにちゃんと書いてあるのに、マンガとかを書いてくる受験生がいるという。
●自分は一生懸命に考えたけど一行も答案を書けない。一生懸命に問題を作ってくれた人、採点してくれている人に申し訳ない、せめてマンガでも書いてなごんでもらおう、ひょっとしたら、採点を甘くしてくれるかも知れない、なんて期待があるのかも知れない。
●だが、これは逆効果。採点官の地雷、逆鱗(げきりん)に触れるのだそうである。
●日本で3本の指に入る国立大学の先生は「ふざけている、よほどマイナス点をつけてやろうかと思った」と、後々まで憤慨されていた。
●ひょっとして本当にマイナス点をつけたのかも知れない。
●カリカリしている採点官に「冗談は通じない」と思っておいた方がいい。


「薄い字、濃い字はダメ」
●答案の字の濃さは、採点に影響を及ぼすのだろうか?
●イエス
●薄い字は、読みとりにくく、採点では不利になりがちだという。固い芯のシャープペンでカツカツ書くのを好む人がいるが、受験当日はやめた方がいい。
●では、濃い字を書けばよいかというと、そうでもないらしい。
●濃すぎる字も読みにくいということだ。直接採点官に聞いたから間違いない。
●ふざけるな、と言いたくなる。しかし、大学の採点者はどういう人か、考えてみよう。
●水晶体が濁ってきて字がはっきり読めない年老いた教授が短期間に何千枚、何万枚といった答案を処理しなくてはならない。目がチカチカ、頭がぼーっとしてくるのだそうである。
●だから、薄すぎる字は読めない、濃すぎる字は、目にチカチカして読みとりにくいそうである。
●この辺は、マークシートでも同じでしょ。薄い字、濃い字は機械が読みとってくれない。鉛筆の芯の固さの指定までしているではないか。
●「答案は読んでもらうもの」とはよく聞くが、標準的な濃さで書く、ということを心がけておきたい。


「大学の採点講評は必ず読め」
●採点基準・採点官のコメント・次年度への傾向などをパンフレットに公表している大学がある。
●これは役に立つ。
●私立大ほど、入試傾向が片寄りやすい。出題者が少ないから、同じ人が毎年作っていたりする。
●「過去問」というと、詳しい解答解説がついている「赤本」が代名詞となっている。
●しかし、大学が直接発信している情報に勝るものはない。
●もっとも、大学が頼んで(情報を提供しお金を払って)「赤本」を作ってもらっているところもあるんだが。


「紋切り型の大学案内」
●大学のパンフをほぼ全部、読破したことがある。仕事で。
●同じ業者が複数の大学のパンフレットを作ってるのだから、どうしても似てくる。
●紋切り型の表現としていくつか挙げよう。
○少数精鋭のゼミ形式で教授と親密な人間関係が築けます。(セクハラされそうで恐いじゃない)
○他学科・他学部の科目も選択できます・低学年から専門教育を充実させました・社会の要請に応える人材を育成します・語学教育の充実・コンピュータリテラシーの充実・・ああ、
●で、一番の差別化はどこか?だから、偏差値が幅をきかせる。あとは、伝統。
●でも、一部で、教育内容が充実している大学が出てきている。こそれを見分けないと。


「短大を受験して4年制大学に合格」
●大学の定員割れは深刻。
●定員1.0を割っていても、実態を知られたくない大学は、数字をごまかして公表する。
●何せ、ある大学では、定員が埋まらず、系列の短大受験者にまで、追加合格の電話を入れたくらい。
●そんなのあり?
●そんな今でも、新設大学はボコボコできる。大学の生き残りなんて言葉も、すっかり陳腐になった。


「入試予想がよく当たる」
●入試問題の漏洩は、必ず起こる。
●忘れたころに新聞に出てくるが、氷山の一角。
●「A大学の入試傾向を語らせると、よく当たる」との評判の塾講師。身元を隠してはいるが、B大学の教授。
●A大学とB大学に何の脈絡もないが、この教授、A大学のOBとして、毎年、A大学の入試作成に携わっていた。
●そりゃ当たるわな。あんた。
●しゃべるのが商売だから、生徒かわいさに、つい、しゃべってしまうのだろうな。
●高校の教師だって、大学の入試問題作っているんだよ。


「字がきれいだと入試でトクする」
●字がキレイだと、入試でトクすることはあっても、損することはない。
ワープロ、字がきれいな答案、字が汚い答案、この3種類の答案、どれが一番高得点を取るか?
●もちろん、一字一句、同じ文章である。
●字がきれいな答案>ワープロ>字が汚い答案、こういう順になる。ちゃんと調べた人がいる。
●入試の採点官いはく、「字が汚い答案は、マイナス点をやりたくなる」「読む気がしない」「昔は、汚い答案は、内容を読まずに×にしていた(おいおい、いまも×つけてんじゃねーだろうな)」などの声が聞かれる。
●受験生が聞いたら腹立たしいコメント。だが、決められた時間内に膨大な答案を処理しなくてはならない採点官の本音だろう。
●マークシート方式だって、汚い塗り方をしたら、機械が採点してくれないのだから。
●ペン字講座を受けろとは言わないけど、普段からていねいに書くように心がければ、入試本番までに何点かは得点力がアップするだろう。


「編集者のランク」
●随分むかしのおはなし。「教材編集者は、雑誌や書籍の編集に比べてレベルが低い」「つぶしがきかない」「長いことやる仕事じゃない」「指導要領に沿って作るだけのつまらない仕事」など、さんざん言われたことがある。
編集者にもランクがあるのだそうで、、文芸書籍編集>雑誌編集>>教材編集。皮肉なことに、その会社の売上を支えていたのは、教材編集>>>>>雑誌編集・文芸編集だった。夜な夜な作家と文壇バーで文学談義をし、そのうち脱サラして芥川賞でも取るのが一つの文学部ドリームだったのだろう。夢破れ落ちぶれて教材編集やっている、ってわけだ。
●僕は工学部だけど、わからないでもない。一つの理系ドリームってのがある。世紀の大発見をし、ノーベル物理学賞を受賞する、これだ。
●教材編集は、難易管理、入試傾向の把握、ミスが出せない、、など、他の編集にはない難しさがある。「ちょっとは評価してくれよ」というのが本音だろう。


「テスト理論」
●教育学部の方はご存知かも。「テスト理論」というのがある。アメリカで発達した。
●前の会社とのかかわりから、先程退職されたNEC主席研究員の佐藤隆博先生の主宰する研究会へ、足繁く通った。SP理論で海外にまで名を轟かせている人だ。あと、立教大の先生、東京大の先生などに、月刊誌のコラムに掲載するための原稿をお願いし、そういった仕事もとおして知識が増えていった。
●模擬試験など評価に関わるなら、必須だ。学校の教師も知っておくべきことがらである。実際は、偏差値の意味すらよく知らない人が多い。


「ミス」は必ず出るもの
●何年経ってもミスとは縁が切れない。私は物理の模試で3年間ノーミス(単に発見されなかっただけ?)だったが、こんなの稀で、毎号どこかの科目でミスが出るのがふつー。
●教材作りをそれこそ40年以上やってきた会社が、毎月のようにミスを出す。「全然、仕事が積み上がってないじゃない」。大学入試だって、毎年ミスが出ている。書籍でも、誤植のない初版はないくらい。
●私の経験上、だいたい、校正もできる/内容もわかる、そんな人が、30人必死で校正して、ミスが1パーセントくらいになる。途中で原稿を改変しないことが前提。
●トルストイ、自分の原稿を30回は推敲したという。文豪ですら、この回数。みょーに30という数字が、私の30人3年ミスゼロ理論と一致したのに感激した。
●受験の頂点東大卒の担当者がいくら徹夜でがんばったって、倒れるまで校正したって、ムリムリ。


「出題者も100点とれない」
●自分の書いた文章がセンター試験に出た。解いたら違った。「ここはこんな意図で文章を書いたのではない」。作家の怒りのコメントをたまに見る。
●しかしこれは作家が間違っている。誰からも誤解されない完璧な文章であること、作家自身が読解力を持っていること、問題を解く力を持っていることが前提。
●あなたは自分の書いた作文や日記が入試問題に出されて100点が取れますか?
●文句をつける作家は、入試問題で満点取れるのか?絶対に取れない。
●数学、理科、英語、地歴にしても、出題者ですら100点とれないのが入試。
●こういう誤解が生じるから小説はあまり入試には出ないけど。評論でもこういうことは起こる。文学部の文章って思いのほか下手。怒る前に、謙虚な気持ちで入試の解答を見て欲しいもんだ。
●「入試でこんな解答をされていた。冷静に自分の文章を読んだら、自分の表現力が足らなかった」という評論家や作家が出て来たら偉いもんだ。が、そんなの永遠に出てこないだろう。


「採点ミス」は実は、頻繁に起こっている
●ある県で、大量の採点ミス(正解なのに×をつけたり、合計点が間違ったり、内申書を転記ミスしたり)が発覚し、処分された。新聞に出てた。
●こんなの、○○違反の揉み消しと同じくらい、茶飯事。どこの県でもどんな入試でもあること
●入試問題の○×つけた答案って返してくれないでしょ。返したらえらいことになる。
●模擬試験会社、教材会社でも同じ。答案返すからミスが発覚するけど、人がやるものだから、ある一定の割合で起きる。採点の単価は、ファーストフードの時給より安く、せいぜい2人がチェックするだけ。ミスゼロにならない。
●一番精度が高いのが、実は、かなりの人が嫌っているセンター試験。あれ、マークシートを違う読み取り機3台で読ませ、点数が一致するのを確認しているのだから。完璧に近い。採点ミスはないと言ってよい。
●受験生からいえば、採点答案を返却してくれというところだろう。せいぜい、正解の発表、得点の受験者個人への通知くらいのもの。


「予備校が入試問題を作成する」なんて、いまさら。
●文部省も懸念のコメントを出していたが、そんなこと大昔から大学が外注していたのは、誰でも(というか関係者なら)知っている。だいたい、大学の教授が、予備校の講師やってるんだから。
●ただ、そんなにおおっぴらにやっていなかっただけ。作ってる方も言わないし。
●入試を作る方は大変。A方式前期だの、1シーズンの入試で、10種類以上の問題を作らないといけない大学もある。問題ミスだ、採点ミスだと叩かれる。疲弊しきっている。
●裏でこそこそやっていたのを、堂々とやりましょう、ということだ。河合塾のプレス発表の意味は(多分)。あの予備校は、昔から何かと先進的で、偉いもんだな、と思う。


「全国入試問題ミス一覧」
●入試で出た訂正文(ミス)を収集し、「ミス一覧」なる冊子を作ろうとしたことがある。
●幸い、私の居た会社では、全国の大学の入試問題を集めており、担当者に頼んで、訂正文を全部コピーしてもらった。
●どの教科のどの分野で、どういうミスが出やすいのか、知ってさえいれば、かなりのミスを防ぐことができるはず。
●実際は、ミスは思い出したくないものらしく、訂正文を綴ったファイルも存在するが、ただ形式的に綴じているだけ。
●残念なことに、これに着手してすぐに異動になってしまった。唯一、やっておきたかった仕事である。
●機会があれば、やってみたい、とは常々思っているが、訂正文が手に入らない。


「裏口入学
●というか、公立高校なんかでも、ある。いや、過去にはあった、と言った方がいい。ごく稀だが。
●有力者からの圧力でどうしても断り切れず、入れてしまった。全国でも指折りの進学校。
●「その一人を入れたために、一人が落ちた。落ちた人の人生を狂わせてしまった」とずっと苦しんだという。
●大学入試なんてもっときな臭い。
●裏口入学は確信犯だが、実は、採点ミス、データの処理ミス、など、かなり曖昧な要素で合否が決まっている。
●曖昧な上に成り立っている入試。外部チェック機能を入れたとすると、2割や3割は合否が入れ替わるだろう。
●裏口入学よりもっと悪い、と思う。
●テストを単なる「業務」としか思っていないからだ。
●ま、入試は「運」の要素もあると思えば、あきらめもつく。


「大学入試懇談会」
●この季節、大学の入試担当者と高校の教員が入試問題に関する質疑応答を主とした懇談会を持つ。
●戦前から行われているのは、日数教主催のもの。東大、京大、東工大、早稲田大、慶応大、東京理科大、学習院大などの入試作成委員が出題意図、採点結果などを演壇で述べる。
●たいてい高校の教員から突き上げをくらうので、大学の先生はいやいややってくる。
●ここでの情報は少ないながらも結構なもの。こういう場に出ずして入試分析をし、傾向を立てたところで意味がない。来年の出題傾向までしゃべって帰る担当教員もいるんだから。
●あと活発なのは、大阪の物理、大阪の化学、東京の物理。また、地方大学と地元高校で、懇談会も適宜開かれている。
●他の教科でもやって欲しいんだが、、、


「高校教員の接待」
●ある女子大が、高校教員向けの説明会で、金券や交通費を渡していたというので新聞やテレビで取り上げられた。
●その女子大へは、取材に行ったことがある。短大から4年制へ移行した何とも熱心な大学で、就職実績もかなりよい。
●大学や業者が、高校教員に金券を渡したり、交通費を渡すのは別段珍しいことではない。
●金券といっても、テレホンカードやioカードだ。何の気なしに受け取ってもおかしくない。
●交通費が、相場よりちょっと高額だったので、問題になった。行った人は、ちょっとトクした気になるし、行けなかった人は、倫理観を振り回すだろう。
●しかし、あの女子大は、進学するにはおトクな大学。


「学会」
●何ともアカデミックな響き。学会。
●教員の長期休暇である夏休みに集中して開催される。
●ある学会で知り合いの教員に出会った。廊下でたばこを吸っていて、定刻になっても、会場に入ろうとしない。
●「先生、始まってますよ」
●「いいんだ。資料だけもらいにきたんだ。学校に出張報告しないといけないからね」
●いいなあ、こういう先生。さっさと遊びに出かけてしまった。
●教頭先生になられた、というところまでは知っている。


「満点で不合格」
●阪大医学部では、ペーパーテストの成績が満点でも面接により不合格になることがある、と発表。
●ちょっと行き過ぎ、と思うが、医学部の受験生は軒並み満点に近い点数を取るのだ。
●日本で3本の指に入る国立大学の理工系の入試の合格者の最高得点ですら、その大学の医学部の合格最低点にも達しない(年度があった)という話を聞いたことがある。
●そんなに成績が優秀な生徒なら面接もそつなくこなしそうだが、実際に面接官の先生に伺ってみると、何人かは、「絶対に落としたい」と思わせるのがいるという。
●こういうことを書くと真面目な受験生にプレッシャーかもしれないが、ご安心を。あがってしまってしどろもどろな生徒は、ちゃんと面接官がわかってくれるから。


「0点で合格」
●ある国立大学の理学部数学科でのお話。
●数学の試験で0点で合格した受験生が出て、物議を醸したことがある。
●いくら何でも、「数学科に、数学が0点の生徒を入れていいのか」と。
●入試は総合点である。他の科目で高得点を取れれば、こういうことも起こる。
●加えて、この年は、数学が異常に難しく、200点満点で平均点が30点くらいだったという。
●結局、この生徒は合格したのだが、この大学はこれを反省し、数学の問題が易しくなった。
●入試問題の難易管理というのは、実は、誤字脱字といった入試のミス以上に、注意を払うべきものなのである。
●一般に記述式で5割、マーク式で6割(まぐれ当たりがあるから)の平均点になるようなテストが、弁別度が高い。